大谷地病院認知症疾患サポートセンター便り

大谷地病院認知症疾患サポートセンタの活動をご紹介します。

高齢者地域生活支援プログラムなつめの特徴その1:あへあほ体操

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あへあほ体操とは

大谷地病院で4月より始まった新しいデイケアプログラム「高齢者地域生活支援プログラムなつめ」では、午前に「あへあほ体操」を行っています。

 

「あへあほ体操」というのは、しものまさひろさんが考案した「ドローイン」という方法を使った体幹レーニングです。

 

ドローインは腹式呼吸を使って体の一番奥にあるインナーマッスルである「腹横筋」を鍛える運動です。

 

腹横筋は体幹をぐるりと囲んでいる筋肉です。お腹から背中に向かって横方向にコルセットのように伸びています。

 

腹横筋の働きは、「お腹を背中側にひっこめる」という働きをしています。腹式呼吸をすると、お腹が動きますよね?これが腹横筋の働きです。

 

腹横筋は呼吸だけでなく、体を支えるのにとても重要な筋肉です。体幹「コア」ともいうべき筋肉で、すべての動作の準備を行い、動作時には脊柱の支持をしています。

 

内臓の位置を固定したり、腸の蠕動運動したりと内臓の機能にも関係しています。

 

年齢とともに腰やひざが曲がるなどの姿勢の崩れが起こり、腰痛やひざ痛など関節の痛みや不具合が起こります。便秘や食欲低下、咀嚼力の低下やかみ合わせが悪くなる、むせが起こるなどの問題も起こってきます。

 

それらは腹横筋の筋力低下が関係しているのかもしれません。

 

「あへあほ」という一見「ふざけている!?」と思えるような発声が、腹横筋の強化につながる呼吸法です。

 

あへあほ体操は、「あへあほ」の発声と、解剖学や運動学に基づいた動きで体の状態を整え、健康な体を取り戻す体操なのです。

高齢者地域生活支援プログラムなつめであへあほ体操を行う理由

では、高齢者地域生活支援プログラムなつめでなぜあへあほ体操を取り入れたのかについてお話します。

 

認知症予防にとって、運動は最も重要な要素です。ただ、認知機能を維持・向上させる可能性がある運動の量は質、種類についてはまだまだ研究段階です。

 

運動が認知症予防に有効である理由の一つが「BDNF」という物質です。「脳由来栄養因子」ともいいます。

 

BDNFはやや強度の高い運動を行う事で分泌が増え、脳神経の健康を守り、新しい脳神経が生まれるのを助ける働きがあります。

 

アルツハイマー病では、アミロイドβの蓄積などの影響で脳細胞が死滅してしまうのですが、BDNFによって脳細胞を守り、新しい脳細胞を増やすことでアルツハイマー病の進行スピードを遅らせることができるのではないかと考えられています。

 

ただ問題なのが、BDNFの分泌量を増やすためには「ややきつい」という運動を30分程度は行わなければいけないという点です。

 

なつめに参加されるのは高齢者ですから、ややきつい運動を30分続けることは難しい方が多いことが予想されました。

 

また、「高齢者」といっても年齢層も様々です。男女の違いもありますので、みんなが適度に「ややきつい」運動を一緒に行うのは難しいと言えます。

 

また、運動を行う以前に、腰やひざの痛みなどの問題を抱えている方も多いと考えました。

 

ところで、運動が認知症予防によいという理由はいくつかあり、もう一つが「本山式筋力トレーニング」が注目している「感覚神経による脳へのフィードバックを強化する」ということにより、脳への刺激を増やす効果があるのではないかということです。

 

筋肉は脳の指令によって働きますが、筋肉は脳の指令通りに動いたことを脳へ報告しています。これが「感覚神経による脳へのフィードバック」です。

 

認知症の方はこの感覚神経の働きが鈍り、筋肉の疲労を脳が感じ取れなくなることがあるのです。

 

認知症の方が、とても長い距離を歩いて迷子になってしまうことがあるのはこのためです。

 

あへあほ体操のメニューの中には、繰り返し筋肉を働かせることによって感覚神経を取り戻すものがあります。

 

あへあほ体操によってインナーマッスルを鍛え、関節や筋肉が正しい位置で正しい可動域を動かせるようになると、日常生活の動きを通じて脳への刺激が増えるのではないかと期待しています。

 

そして何より、「あへあほ体操は楽しい!」。

 

楽しく運動し、運動をやり遂げたという達成感が高齢者の皆さんの元気の源になるのではないかと思っています。